第9回ラグビードクターカンファランス

脊髄損傷に対する再生医療の現状と将来展望に関するシンポジウムを開催しました。座長は、愛染橋病院整形外科(関西ラグビーフットボール協会 医務委員長)中村 夫左央先生と聖隷三方原病院脳神経外科(関西ラグビーフットボール協会 医務委員)佐藤晴彦先生のお二方が務められました。その後、「iPS細胞を用いた脊髄再生研究」について、慶應義塾大学整形外科講師の名越慈人先生と、「自己脊髄間葉系細胞を用いた脊髄損傷治療~実際と将来展望~」について、札幌医科大学 理事長・学長の山下敏彦先生が講演されました。


「 iPS細胞を用いた脊髄再生研究 」 慶應義塾大学 整形外科 講師 名越 慈人
我々は脊髄損傷に対するヒトiPS細胞を用いた細胞移植研究を進めてきた。そして本成果は臨床研究まで到達し、現在も患者への移植と安全性および機能評価を行っている段階である。 一方で、より重度な急性期損傷に対する治療確立のため、我々は動物モデルを用いて、抗炎症および血管新生作用を有する肝細胞増殖因子(HGF)を損傷直後から投与し、二次損傷の拡大を予防した上で神経前駆細胞の移植を行った。その結果、良好な移植細胞の生着と豊富な神経分化を認め、歩行機能の改善が得られることを明らかにした。このHGFは、すでに臨床治験で急性期完全麻痺の患者の一部で下肢筋力が回復することを明らかにしており、今後は細胞移植との融合へ向けた治療の確立へ向けてさらに研究を進めていく。 慢性期脊髄損傷においては、細胞や投薬などの治療介入に加えて、脊髄組織の活性化を目的としたリハビリテーションも再生効果を促す役割を果たす。我々の研究でも、リハビリによる神経栄養因子やシナプス形成の促進により、慢性期においても移植した細胞の生着率が向上し、神経分化と機能回復が得られることを明らかにしている。臨床研究においては、脊髄損傷患者に対してロボットスーツHALを用いた訓練を施行し、歩行機能の改善が得られることを報告しており、今後は細胞移植治療との新たな融合が期待される。


「 自己骨髄間葉系幹細胞を用いた脊髄損傷治療 -実際と将来展望- 」 札幌医科大学 理事長・学長  山下 敏彦
札幌医科大学では、2019 年 5 月より、厚生労働省の条件・期限付き承認に基づき、自己骨髄間葉系幹細胞製剤(ステミラック注、ニプロ)による脊髄損傷治療を施行している。保険診療下に脊髄再生医療が実施されるのは世界初となる。ステミラック注の適用は、AIS A~Cの外傷性脊髄損傷で、損傷高位や年齢の制限はない。受傷後31日以内に骨髄液を採取することが定められている。 札幌医科大学におけるこれまでの登録症例数は110症例で、他施設の症例と合わせると、総登録症例数は190症例を超える(2024年5月現在)。ステミラックを投与した多くの症例で、比較的良好な機能回復が得られており、重大な副作用は生じていない。投与症例の中には、スポーツに起因した脊髄損傷例も含まれている。札幌医科大学の症例のうち、21症例(男19例、女2例) がスポーツによる受傷であった。 一方、慢性期脊髄損傷症例を対象とした骨髄間葉系幹細胞投与の医師主導治験を施行している。対象は受傷後6カ月以上経過したAIS A~Dの症例である(18歳以上)。これまで12例に幹細胞投与を行っている。症例により程度の差はあるが、投与により概ね上下肢の運動・知覚機能の改善が得られている。神経学的スコアに表れないADL上の改善が得られた症例もある。更なる症例の蓄積による解析が必要である。 今後の課題としては、スポーツの現場における本幹細胞治療の周知・啓発、脊髄損傷患者発生時における現場・医療機関・本学との連絡体制の確立、治療可能施設の更なる拡大などがあげられる。